情動のマインドフルネス


米シリコンバレーを中心に巻き起こる西洋の瞑想ブーム。一種の瞑想法を「マインドフルネス」として、社員研修に導入する企業が増えています。しかもこれは一定の効果を上げており、多くの関連書籍が出版されているのです。


具体的にどのような企業が実践しているのでしょうか。その一例を挙げると、グーグル、アップル、インテル、フェイスブック、ヤフーなど。いずれもアメリカを代表する企業ばかり。また、アップル社の故スティーブ・ジョブズが禅思想に傾倒していたことは有名な話。



マインドフルネス(mindfulness)

ところで、マインドフルネスとは、一体なんでしょうか。パーリ語の「サティ」を英訳したものになります。では「サティ」に対応する日本語は?日本語では「念(正念)」、つまり仏教における八正道の一つです。そうです、マインドフルネスは仏教の考え方が由来しているのです。


その具体的な手法を見てみると、


・より気づきを増すこと
・より意図的になること
・経験する出来事に、いっそう深く関わること

一言で表すと、「あるがままを受け入れる」ということになる。


マインドフルネスには重要な2つの側面が組み合わされている。それは、注意(attention)と意図(intention)である。―『弁証法的行動療法ワークブック』スコット・E・スプラドリン


つまり、より注意深く意図的に行動すること。それによって、経験からの気づきを増すことができる。つまり、人生に主体的に参加すること、自分の人生をしっかり生きることにつながる。



マインドフルネスはパフォーマンスを引き出す手段として注目されています。スポーツ方面ではパフォーマンスの向上、教育方面では子どもの学習能力向上、企業方面では従業員のモチベーションアップや幸福感の向上が報告されているからです。


※今回「情動」という言葉を頻繁に使っています。基本的には「感情」と同じ意味です。ただし、情動は「身体的な衝動や興奮を伴う感情」というニュアンスも含むので、少しだけ違うかもしれません。



動じない心を持つ

強いプレッシャーにさらされているアスリートやスーパースターに限らず、一般的な人でも自己の激しい情動コントロールに苦しむことがあると思います。ある出来事や誰かの言動がトリガーとなって、情動が表出してしまうような。怒り、恐れ、悲しみ、パニック、不安感、恥辱など。


情動に翻弄されて感情的になったり、衝動的な行動を取ってしまうと、あとですごく後悔するはずです。当たりどころが悪ければ、パートナーや友人との関係にも亀裂が入りかねません。


そのような最悪の事態を避けるために、情動をコントロールする術を身に付けておきたいものです。つまり、情動の方向を上手に変えたり、瞬間的にフッと激しくならないようにする。沸き上がる情動をいったん受け入れて、鎮めることができれば、情動が我々の生活を脅かすことはなくなるはずです。そうなると、瞑想を日常に取り入れることが解決策でしょうか。



マインドフルネス瞑想の効果は確かに魅力的です。しかし、毎朝決まった時間に瞑想タイムを確保するのは敷居が高い。何より継続できなそうな気がする。


実はマインドフルネスは必ずしも瞑想することではありません。座禅の必要もない。悟りをひらくことでもない。一種のリラクゼーションと捉えると分かりやすい。そして、一番優れている点は情動のコントロールに非常に役立つということです。



マインドフルネス・スキルの方法

マインドフルネスはメンタルヘルスの世界でも注目されています。マインドフルネスを精神疾患の治療に取り入れたプログラムが「弁証法的行動療法」と呼ばれるもの。日本ではまだ馴染みが薄いのですが、目端の利く方々から注目されています。


その開発者である心理学者マーシャ・リネハンの提唱する「マインドフルネス・スキル」というものがあります。われわれ一般人にとって、非常に役立つ方法論なので紹介します。日常生活で訓練できるノウハウです。以下、『弁証法的行動療法ワークブック』より一部抜粋。



1)観察する

環境、思考、感覚、情動、体験について、反応したり、批判したりせず、ただそれらに「気づく」ことから始める。すぐに判断を加えたり、変えようとしたりせず、ただ眺める。そして、浮かんでくる自分の情動に注意を払う。


2)描写する

観察が終わったら、今度は情動を言葉で表す。できるだけシンプルに。例えば、「”これは自分らしくない”と感じている自分に気づいた」など。はじめは戸惑うかもしれないが、訓練を重ねると自分自身の内なる声に気づくことが増えてくる。


3)関与する

マインドフルネスを繰り返すことで、自分の人生に関与する深さが増してくる。できる限りすべての瞬間に没頭し、そのときの経験を味わってみよう。余計なことは考えず、純粋に自分自身の経験と一体化していく。


以上、3段階のシンプルな作業だった。一つの体験に注意深く丁寧に向き合うとよりよい。



情動を特定すること、表現することができるようになるとどうなるか。ネガティブな情動やストレス反応をすばやく低下させることが上手になります。そうなれば、明らかに生活の質が高まるのを感じることでしょう。



弁証法的行動療法(DBT)とは

弁証法的行動療法(dialectical behavior therapy:DBT)は、ワシントン大学のマーシャ・リネハンが開発したプログラムです。自殺願望のある女性に対して効果のある治療法を研究していたことがきっかけでした。DBTは、特に境界性パーソナリティ障害の治療に一定の効果を上げています。とりわけ自殺未遂や自傷行為のある患者に対する改善効果が高いことが実証されました。


日本で弁証法的行動療法(DBT)を受けられる医療機関はまだまだ少ないのが現状です。そもそも、DBTが日本で導入されたのはつい最近のこと。DBTの治療マニュアル翻訳が2007年、そこから日本向けにマニュアル化を進めた後、治療に取り入れ始めたようです。既存の治療法とともに症状の改善が期待される新しい行動療法です。




参考文献:『弁証法的行動療法ワークブック』スコット・E・スプラドリン(著)金剛出版(2009/2/28)

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